中国のちまた見聞録

中国を素のまま、生のまま捉える様に心がけました


 「淀みに浮かぶうたかたはかつ消えかつ結びて久しく留まることなし」
  今から5、6年前中国を通算2年をかけて旅行した。中国語でいう「旅游」である。

 日本のように圧倒的に単一民族が支配的である国に対して、中国の広大で且つ多くの少数民族を内に包含し、多少の矛盾はありながらも、国としての体勢を2000年間の長きに亘って続けてきたということは、それだけでも畏敬に値する。

 今回の旅は現実の姿に直接触れることにより、中国の良さと遅れた点を垣間見ることができたと同時に、日本との関係において改めて日本を見直すきっかけになったと思う。

 このブログはその時の記録である。これ以上無理解による反目が広がらないことを祈る。

     目指すは「坊ちゃん」と「ドクトルマンボウ航海記」    (李 白扇)
 

 
 

南通見聞録

 南通という街は先にも書いたが上海の近郊で、地図の上からは上海にまるで接しているかのように見える。その間には、長江が「たゆとうて」いるから物理的に接しているわけではない。しかし経済的には接しているようである。おそらく近年は上海とともに発展してきたのであろう。バスで南通に入ると、長江の恐ろしく長い橋を渡ってしばらくすると高速から外れて、南通の市内へと入っていくが、左手の方に造船所群が見えてくる。これらはすべて長江に面したいわば内港に岸壁を持っている。この中に30年ほど前に日本の川崎重工が合弁で作った「○○川崎」という名前の入ったガントリークレーンも見えてくる。中国のバブルの走りの時期であったのだろう。
 上海はほぼ開発されつくしたと見え、出来上がった完成された形を見せている。15年ほど前CADのサポートで訪れた時は、今や上海のシンボル的存在である、「外灘から見える対岸のタワー」はまだ建設中であり、かつ外灘も旧居留地の風情あるたたずまいを見せていたのだが、いまはその風情はもう望めない。
 さて話を南通に戻すと、南通市内に入るまでに当然のこととして郊外の農村・田園の中を通過するのだが、この農村にも大きな激しい変化が見られる。 それは、昔の農家はレンガ造りで、平屋で、戸口は地面にそのまま直結していてどちらかというと、貧しい、汚らしい(この言葉は本当に失礼と思うが、冷静に状況把握するためには敢えて使わざるを得ないことをお許しいただきたい)家々が連なっていた。ところが今はどうだろう。その昔ながらの造りの家々は決まったようにそこに依然として存在し、それに隣接して(棟続きで)新しい大きな家(それも決まって二階建て)が建てられている。私が見たところ97,8%はこうした建て増し?がされているのである。昔ながらのレンガ造りの家々は多分農機具置き場や穀物倉庫として利用されているのだと思う。この変化自体は農家の人々にとって素晴らしいことだと思う。生活はすこぶる快適となり、生活様式は一変したことであろう。しかし、この家々を立てるためのお金はどうしたのだろう。中国政府は所得の6,7%を年金の基金として召し上げ、企業からは各人の所得の20%を個人宛の年金の基金として召しあげているので、これらの豊富なお金を使うと、今すぐ焦げ付くことはないだろう。しかし今から5年、10年後日本の厚生年金と同じ運命をたどっていない保証はない。
 バスはこの近郊の農村地帯を抜け市内へと入ってくる。そこで、眼前に広がるのは、大規模なアパート、マンション群の建設ラッシュである。20階建ぐらいの高層マンションやアパートが林立もしくは建設中である。おそらくこのマンションの売買価格は庶民の手が届く代物ではないのではと思う。日本円で1戸1000万円ぐらいはするのではと思う。だれがこの高いマンションに入るのか。だれが高い家賃を払って入居するのか。アメリカの押し売り強盗的なサブプライムローンに端を発して世界中が冷え込んでいる中、中国でも失業率が急増している。いまの中国人の平均所得でこのマンションや高級アパートに入居できるのか。答えはノーではないだろうか。事実建設完了したマンション群に人が入居している気配はない。
 このようにみると建設の中心は上海から何通のような近郊都市に移っているのではと考えられる。
 中国は今は年6%の成長率を誇っているから、すぐに問題が顕在化することはないだろう。しかし来年、再来年考えただけでもぞっとする。
 願わくは、現在中国が有している豊富なお金を官僚の思うままの運用を許さないでほしい。折角「特色ある社会主義建設」に向かって比較的「順調」に推移している状況を根本から崩すことのないように期待する。
 こういった先をみた十分な対応がなされないと、これぞまさにサブプライムローンの再来ではないかと危惧するのである。どうかアメリカや日本の轍を踏まないようにお願いする。去年は「改革開放30周年記念」である。中国全土をあげ、市場経済に酔っている。世界中の経済学者が市場経済至上主義に疑問を投げかけ、ある種の計画経済の導入を研究している時に、中国の人々は市場経済一本槍のように見える。どうかこのタイムラグをうまく利用してほしいと切に願うと同時に、「特色ある社会主義建設」は中国だからきっと出来る。成し遂げられると期待をしている次第である。中国を愛するが故の深い心配である。老婆心!